
音楽
長い旅の始まり
こんにちは、ミュージカル『めくるとき』の音楽担当の中野です。ここ では、このミュージカルの音楽について簡単に解説していきます。
僕が監督から話をきいて、このミュージカルの製作に関わることを決めたのは4月のことでした。長らく映画音楽を趣味で書き溜めており、ちゃんとした映画の製作に関わりたいと思っていたところで、ある顔の広い友人からこの企画の話をきき、飛びつきました。ミュージカルを作曲し、それを上演してもらえる機会など、これを逃せばなかなかないだろうと思ったのです。


新しいジャンルへの挑戦
この仕事は僕にとって全く簡単なものではありませんでした。まず、僕はこれまで映画音楽らしい曲、とりわけ暗い曲をたくさん書いてきましたが、ミュージカルとして歌われる曲を書いた経験はゼロでした。それに、主人公 神田詩織の性格は明るく、夢と希望を歌うこの物語のトーンも決して暗くはありません。今までの自分の曲のスタイルが通用しない世界だったといえましょう。

とはいっても、今までに自分がしてきたことが役立ったところもあります。一番大きかったのは、僕がこれまでライトモティーフと呼ばれる作曲手法をとってきたことでした。ライトモティーフとは、特定のキャラクター・場所などを、繰り返し現れるメロディ・フレーズに結びつけることで、曲を使って具体的な事象を想起させたり、作品に一貫性を持たせる手法です。これは、この作品の音楽を構築する上で強力な指針となりました。
「真っ白なページに 言葉を置いて」
もう一つ僕にとって大きな課題となったのは、歌詞も曲と同時に書いていくことでした。他の人に書いてもらい、それに曲をつけるよりは楽なのですが、映画脚本の中ではセリフと同等の重要性を持つという点で、非常に プレッシャーを感じていました。一部の歌詞は完成締め切りギリギリまで練り続けたりもしました。歌詞の一言ひとことが意味のあるものとなるよう、音楽チームの他のメンバーや監督からアイデアをもらい、なんとか期日に間に合わせました。
観客の皆さんへ
この作品を観るとき、もしあなたがこれを初めて観るのであれば、ぜひ心を空にして、画面に目を据え、耳をすませてご覧ください。この物語自体が持つ力が、尹さんや川村君の演技や、僕の音楽や、監督のカメラワークを通じて直に伝わってくることでしょう。そしてもしこの作品を気に入っていただけたなら、ぜひもう一度ご覧になっていただければと思います。そのとき少し細部に気を配ってみると、最初に見たときに感じた作品のパワーが、ちょっとした、しかしたくさんの工夫に支えられているかがわかるでしょう。きっと観るたびに発見の尽きない映画だと思います。
それでは、本編公開後に完成予定のメイキング・ドキュメンタリーで、またお会いしましょう。